気温が高くなってくると時々つらいニュースを目にします。
「車内に数時間放置された乳幼児が死亡」…。
コメント欄にはこんな意見が並びます。
- 子供の存在を忘れるなんてありえない
- 信じられない、自分なら絶対こんなことしない
- やっぱり父親のせいじゃん。母親なら子供のことを一瞬たりとも忘れない
- 親に障害があったんじゃない?
中には「わざとでは?」なんて、見るのも悲しいコメントも…。
ですが、愛する子どもを車内に忘れてしまうと言うのは絶対にありえないことではないのです!
赤ちゃん忘れ症候群(forgotten baby syndrome/FBS)という名前もついています。
この、赤ちゃん忘れ症候群によって悲しい事故が起きてしまうのです。
そんなことは絶対ありえない!親がおかしいからそんなことが起きたんでしょ。と言いたくなる気持ちもわかります。(SNS上でかなりたくさんのこの意見を見かけたので…。)
でも、そう言い捨ててしまっては何も変わりません。
このような事故を起こしてしまった親御さんを過剰に擁護するつもりはありませんが、外野が「私ならそんなこと絶対にしない」なんて言って親を責めたところで、次につながるものはひとつもありません。
亡くなってしまったお子さんを思うなら、一人ひとりが人間の脳は完璧じゃないことを理解して、危機感を持って、できる限りの対策をとること。
それがこの先このような事故を起こさないための大切なポイントになるはずです。
赤ちゃん忘れ症候群(Forgotten Baby Syndrome)とは
赤ちゃん忘れ症候群とは、その名のとおり赤ちゃんや幼児を置き忘れてしまうこと。
22/11/15追記
「赤ちゃん忘れ症候群」という言葉に対するSNSの反応を見ると、「病気のせいにするな」「変な名前つけるな」という意見が多いですね。
Forgotten baby syndrome を日本語にすると違和感があるのは確かにそうかも。
英語ではある特定の行動パターンを「syndrome」とすることがあり、日本語の「症候群」のニュアンスとは微妙に違うかもしれません。
「症候群」と言っても決して病気のせいにして物事を矮小化しようとしているわけではないです。
むしろ子どもを車に忘れてしまう、という行動パターンに「赤ちゃん忘れ症候群」という名前をつけてなぜ起きてしまったのか原因を分析し、次に起こらないようにするにはどうすればいいか対策を考えるためのものです。
「その親だけの個人の問題」だと片づけてしまうと、また同じことが起こってしまうので。
赤ちゃんや幼児を置き忘れてしまった場所が車の中だった場合、重大な死亡事故につながります。
Washington Postの記事によると、アメリカで過去15年間に起きた682件のこういった死亡事故のうち、
54%が子どもをうっかり車内に忘れてしまった赤ちゃん忘れ症候群によるものだったそう。
つまり、15年間で約370名の子どもが赤ちゃん忘れ症候群により命を落としているのです。
(そのほか、28%は子ども自身が車内に入り込み鍵をかけてしまったなど。17%は故意に子どもを車内に置き去りにしたことによる)
多くの人がありえないと考えるこの赤ちゃん忘れ症候群ですが、原因は何なのでしょうか?
信じられないけれど、実は誰にでも起こりえることなのです。
赤ちゃん忘れ症候群(Forgotten Baby Syndrome)の原因
赤ちゃん忘れ症候群の原因は、脳にあります。
脳には 未来の記憶システム と 習慣の記憶システム があります
未来の記憶システム
これから先のプランや展望を記憶しておくシステム
ex.これから子どもを保育園に連れて行くなど
習慣の記憶システム
半ば自動的に習慣的な行動を記憶して行えるシステム
ex.家から職場まで考えずにたどり着くことができるなど
車の中に子供を忘れてしまった親たちは、その日はストレスが多かったり考え事をしていたり睡眠不足だったりした…と言うそう。
そのような脳に負荷がかかっているときに、未来の記憶システムより、習慣の記憶システムが優位に働いてしまうことがあるんです。
だけど、そういう余裕のない日に習慣ではない行為(今日だけ子どもを保育園に送っていく、仕事帰りにスーパーに寄る、など)があったとしたら…
キャパがいっぱいいっぱいな脳は、とりあえずいつも通りの一日を過ごせるように習慣の記憶システムを優先して、次のようなことが起こります
- 仕事の帰り道で、今日だけスーパーに寄らなきゃいけないことを忘れる
- 出勤の途中に、今日だけ子どもを保育園に送らなきゃいけないことを忘れる
スーパーと我が子を同列で語るなんて!と言われそうですが、「予定外のプラン」という意味では脳にとってはあまり変わらないんですよね。
わが子の存在を忘れるというより、「保育園に寄る、という予定外のプランを忘れる」というイメージ。
(もちろん、保育園に寄るのを忘れるよりスーパーに寄るのを忘れる方がずっと頻繁に起こってるでしょう。そんなこと誰も報道しないだけで。心当たりありすぎ…。笑)
赤ちゃん忘れ症候群を起こす親に性別学歴は関係あるのか
赤ちゃん忘れ症候群を起こすのは「馬鹿な親」「愛情が薄い親」「無責任な父親」「障害がある親」なんて酷いコメントを見ることがありますが、本当にそうでしょうか。
海外では15年もの不妊治療の末に授かった愛娘を自身の赤ちゃん忘れ症候群で失い、慟哭する母親の事例がありましたが、それはほんの一部でしょう。
実際、赤ちゃん忘れ症候群で子どもを亡くした親は他の親と同様、わが子を愛している親だそう。
このような事故を起こした親の職業についても調べたデータがありますが、裁判官、弁護士、歯科医師など一般的には難関とされる職業に就いている親たちもいました。
父親ばかりこういう話を聞く!という意見もありますが、それって
- ふだん子どもの送迎を担当しているのは母親が多く、イレギュラーな送迎をするのが父親である割合が高い
- 男性の方が仕事を持っている割合が高く、仕事のことで頭がいっぱいになりがち
という理由ではないでしょうか。
えっ、保育園に送っていく?荷物とか場所とかよく分からないし忙しいから無理だわ!っていう父親だってまだまだいますよね。
そんな中、子どもの送迎を担当するお父さんは、きっと家族のために日々がんばっていたのでしょう。
「母親ならそんなことしない」というのはあまりに短絡的で母親というものを神格化しすぎです。
自分の話になりますが、私は母の赤ちゃん忘れ症候群で忘れられたことがあるんです。
母は生後3ヵ月頃の私をベビーカーに乗せてスーパーへ行き、袋詰めをしている間にすっかり忘れてベビーカーを置いたまま1人で家に帰ってしまったそうです。
帰った瞬間気づいて慌てて戻った、と今では笑い話ですが…母親でもこういう事はあり得るのです。
ちなみに母はおとぼけキャラではありません。
旧帝大理系卒の研究職で、その頭の切れっぷりやテキパキと仕事も家事も完璧にこなす姿には娘ながら舌を巻くばかり…そういう、切れ味鋭いタイプの女性です。
そんな母が赤ちゃん忘れ症候群になったのは、3ヶ月の産休が終わって復帰したばかりの頃でした。
仕事終わりに私を迎えに行ってスーパーに寄った時、出産前にしていたのと同じようにそのままひとりで帰ってしまったそう。
仕事のことで頭がいっぱいだった…と。この類の事故でよく聞く話ですよね。
母親だから、しっかりしてるからなんて何のあてにもならないのです。
習慣ってほんとうに強いし、脳は簡単にミスするものなのです。
赤ちゃん忘れ症候群(Forgotten Baby Syndrome)の対策
命に関わる赤ちゃん忘れ症候群ですが、発生を100%防ぐ事は難しいです。
脳のバグみたいなものですもんね…。
だからこそ、特にイレギュラーな行動をする日には対策をとるべきです。
夫婦で赤ちゃん忘れ症候群について共有して危機感を持つ
なによりもまず最初の対策は、「自分には起こらない」「ダメな親だからこんなことが起こった」という思い込みを捨てることです!
赤ちゃん忘れ症候群は決して自分たちに無関係ではないこと、次のようなときに赤ちゃん忘れ症候群が起こりやすいということを夫婦(祖父母など他の人が送迎することもあるならそこでも!)で共有しておきましょう。
- 毎日のスケジュールに組み込まれたイレギュラーな送迎やお出かけ
- ストレスが多いとき、考え事があるとき、睡眠不足のとき
子どもを無事送って行ったかふだん送迎している人が連絡する
ふだんと違う人が子どもを送迎したなら、いつも子どもを送って行っている人がLINEなどで「無事に送れた?」などと一報を入れるのも良い対策です。
ただ、怖いことに脳って「子どもを送り届けたはず」という勘違いをしていることもあるんですって…。
「泣いてなかった?」「○○を先生に渡してくれた?」など、具体的なエピソードを聞くことも効果的です。
「今日はこんな様子で登園したよ」と記憶がよりはっきりするはずです。
降りる際に後部座席のドアを開ける習慣をつける
赤ちゃん忘れ症候群がさいきん増えた理由のひとつに、チャイルドシートが義務化され後部座席に装着することが推奨されるようになった、ということがあります。
それまでは助手席に乗せる人も多く、子どもが目に入っていたんですね。
習慣ってこわいと同時に便利なものでもあるので、降りる前に後部座席のドアを開けて確認することを習慣にしたいですね。
スマホや財布などを後部座席に置いておく
スマホや財布など、自分が必ず車を降りるときに持っていくものを後部座席の子どものそばに置いておくようにしましょう。
子どもの荷物を前の座席に置いておく
逆に、子どもの荷物は助手席に置いておくと目に入りやすく、子どもを送って行くことを忘れにくくなります。
到着する頃にスマホのアラームをかけておく
車に乗る前に、到着予定時刻にスマホのアラームをかけておきましょう。
出勤するなら、会社に到着する時間くらいに(○○を送っていく!)とラベルをつけてスマホが鳴るようにしておくといいでしょう。
赤ちゃん忘れ症候群(Forgotten Baby Syndrome)まとめ
子どもを車内に置き去りにしてそのまま…と言うニュースはショッキングなため、記憶に残りやすいですよね。
ですが、きっとその裏には亡くなりまではしなかったけれど、うっかり子どもが乗っているのを忘れてしまったけれど早いうちに思い出した、冬場だから無事だったというような似たようなケースが、報道されないだけで何百何千とあるはずです。
その何百何千の中に、悲しいことに気づくまで時間がかかってしまったとか、夏場ですぐに車内の気温が上がってしまったケースがあって、死亡事故につながるのです。
赤ちゃんや小さな子どもを車内に忘れて死亡させてしまったという報道では、親を散々叩くコメントもたくさん見られます。
ありえない、信じられない、自分なら絶対そんなことしない!
と思考停止したくなる気持ちも、親としてとてもよくわかります。
だってもし自分の子に同じことが起こったら、と思うと悲しすぎるもん…。
こういうときに親を叩くのって「自分には関係ないことであって欲しい」と言う願望の表れなんですよね。
- 最低なバカ親だからそんなことが起こったんだ。
- 自分はちゃんとしてるからこんな地獄のようなことは起こらないはずだ。
- だから関係ない。安心して大丈夫だ、と。
だけど、赤ちゃん忘れ症候群は最低なバカ親にだけ起こるものではないんです。
だから、最終的にもし万が一のことがあったときに子どもが助かる確率が高くなるのは、こういうことが起こるかもしれないと自分のこととして考え、対策していた場合です。
信じられないけれど、どれだけ子どものことが大切でも、脳のバグでこういうことが起きるのかもしれない。
どうしたら防げるんだろう?
と、「赤ちゃん忘れ症候群/forgotten baby syndrome」と検索して、この記事を最後まで読んでくださった方は、きっと一緒に考えてくださると思っています。